【人を大切にする経営学コース】第7講を開催しました

とちぎ経営人財塾第6期のスタートから通算で13回目の講義となる「人を大切にする経営学コース」第7講の日を迎えました。本コース第7講は、株式会社山崎製作所 代表取締役社長 山崎 かおり 氏 を講師にお招きし、「二代目板金屋女社長の覚悟と挑戦 〜町工場の技術と女性の感性から生まれた自社ブランド〜」というテーマで開講いたしました。

株式会社山崎製作所は静岡県静岡市清水区に本社を携える、精密板金加工全般を営む事業者です。ポストコロナにおいても最重要課題である、中小製造業における自家製品開発に先進的に取り組んでいる企業として、今回初めてとちぎ経営人財塾にてご講演いただきました。

山崎社長は今から11年前に事業承継を行い、同社の代表取締役社長に就任いたしました。当時業界には女性がほとんどおらず、社内においてもほとんどが高年齢男性という状況でした。しかし今では、理念経営を通して若者が集まる企業へと変革を遂げました。今回の講義では、これまでの11年間で行ってきた社内改革に関し、山崎社長が現場目線で悩みながら実践してきた事例をご紹介いただきました。山崎社長いわく、「失敗してきた」「戦ってきた」内容を生の声でお話しいただきました。

山崎社長ご自身は平成3年に入社し、経理部門のパートタイマーとして働き始めました。ご長女出産後の時期だったそうです。その後リーマンショックの影響で売上が半減し、一時は創業者の父親が廃業することまで考えていた状況でした。社内の雰囲気も暗く、経営状況も暗い状況で、当時の山崎社長は「存続するのは、私しかいなかった。」とおっしゃいました。

山崎社長が事業承継した当初に行ったことは、社内を知る取組でした。具体的に実施したのは工程分析、社員アンケート、面談、研修でした。特に社員アンケートでは、「うちの会社はお客さんの奴隷だ。」「板金屋に勤めているなんて恥ずかしくて言えない。」という、今後の改革のきっかけとなる言葉に直面することとなりました。なぜ社員がそのようなことを思うのか、山崎社長は悩み、社員から直接話を聞きながら、徐々に理解を深めていきました。同時期、経営について勉強をする中で、社員が同じ方向を向いて活動するために経営理念を作ることの重要性に気づいたそうです。

社内改革を行うにあたり、自分自身の覚悟(経営の目的)を決めました。「社員の誇りを取り戻す。板金職人の社会的地位向上」です。ここから6つの社内改革に取り組みました。多くの改革を同時並行しながら進めていきました。

本レポートでは2つご紹介いたします。

1つは「円の組織作り」です。通常、組織図でイメージされるような組織づくりのイメージは階層構造です。各事業部や部門があり、それぞれ上位に意思決定者が存在する。その最上位に社長がいる。そのような組織です。しかし山崎社長は、社員に「みんなの会社」だという意識を持ってもらうため、組織図を円で考えました。意思決定は部門ごとで良い、社長には事後報告で良い、と現場への権限移譲を積極的に行っています。

また、みんなの会社では、経営理念も全員で決めます。事業承継をした当初は山崎社長ご自身で、「世界一の板金屋になる」という経営理念を作ったものの、社員たちからは笑われて引っ込めたという経験がありました。その経験の後、社員とともに経営理念を作る中で、会社の目指す像は「地域一番の板金屋」「唯一無二の板金屋」と変化していきました。全社で部門横断型の研修を行いながら、経営理念の策定、落とし込みを行っているそうです。

もう1つは「開発型企業への変革」です。プロジェクトチーム「三代目板金屋」を2015年に立ち上げました。企画、デザイン、製作、営業、販売までをこなすチームで、最初は女性社員3名でスタートしました。熟練職人の技術を社外に発信し、それを見てもらうことでお客様の声を聞く機会を作り、熟練職人に誇りを取り戻してもらいたい、という思いで「三代目板金屋」の名前にしたそうです。三代目というのは山崎社長自身が二代目で、これから次の世代に板金の技術を残していきたいという思いが、板金屋というのは「板金屋」がどういったものなのかを知ってもらいたいという思いがこもっています。

「三代目板金屋」は、同時に山崎製作所のオリジナルブランドの名前でもあります。熟練職人の技術をいかす自社製品の開発にも同時に取り組んでいました。板金屋の技術の結晶として、ステンレス製の「かんざし」が生まれました。この製品開発がきっかけとなり、全社と既存事業にイノベーションをもたらしました。展示会の出展を通して医療関係の大企業の目に止まり、直接取引が生まれたで完全下請構造からの脱却や、メディア出演を通して仕事の問い合わせが入るようになったという影響がありました。その結果、外部からの評価を受け、熟練職人たちに誇りが戻ってきた様子を目の当たりにすることが出来たそうです。

まだまだ改革の内容をご紹介しきれておりませんが、これらを進めていった結果として、以下のような結果が得られているとお話しいただきました。

  • 発信活動を通して、求人を出さずとも若い人からの応募が来るようになった
  • 医療分野、消費財分野への進出により、直接顧客の顔が見え、やりがいを得られた
  • 完全下請退室からの脱却により、景気に左右されない会社へ進めるようになった
  • 若手職人たちにも夢を持ってもらえるようになった
  • 既存事業の新規顧客の増加
  • 付加価値の高い仕事へのシフト
  • 利益率の増加
  • 10期連続黒字決算

また、新型コロナウイルス感染症の影響で、取引内容の内訳には少なからず影響があったそうです。しかし、これをチャンスと捉え自社ブランドのEC販売の強化や、職人の多能工化に取り組むなど、さらなる変革の余地があるということを最後にお話しいただきました。

そして受講生からの質問の時間には、合計14問の質問にお答えいただきました。

ここではそれらの質問の一部をご紹介いたします。

・熟練職人から若手への技術継承は難しいイメージがあるがどのように行っているか?

→ある時、若手に技術を教えられるように熟練職人を1対1で担当につけてみたところ、熟練職人が技術指導を通して変わっていく様子を目の当たりにした。それがきっかけで、「職人は教えるのが下手」という無意識のバイアスを取ることが出来た。職人の技術は若手にしっかり伝わるものだと感じている。

・生産現場のIoT導入は何に着目してどのように変革を進めていったか?

→生産工程の分析を専門家とともに行い、勘で対応していった。当時周囲の企業は着手していなかったため。やったら結果的に成功した。

・女性は生産現場にどう関わっているのか?

→社内の誰しもが同じようなことをやらなくても良いと考えている。人それぞれ特徴もスキルも違うので、それぞれが活躍できる場で活躍してもらうようにしている。一例として、女性はレーザープリント加工に関わっている。

・人事考課をどのように行っているか?

→本人のスキルマップをもとに成長したところを見つめ、次の課題を見つけるようにしている。やり方については悩み続けていて、まだ結果には出ていない。

山崎社長の現場目線に基づく実践のお話は、受講生にとって勇気を得られる内容だったのではないでしょうか。

従業員の声を聞き、改革を徹底してきたからこそ今がある、ということを肌で感じることが出来ました。

懇親会では、蕎麦処 栃の木や様と株式会社大正光学様に会社紹介をしていただきました。自社独自の取り組みをご紹介いただき、非常に活気ある懇親会となりました。

今後一層、懇親会での交流を深めていきたいと思います。